
◆2012年4月27日
「戯史三國志 我が土は何を育む」(講談社)
吉川永青
「三国志」を題材にした小説「戯史三國志」シリーズの最終巻です。
先帝・劉備、関羽と張飛、さらに諸葛亮や趙雲ら重臣たちもすでになく、国力が疲弊しきっている蜀漢の最晩期が舞台。
幼いときに劉備に拾われ、長く仕えてきた老将・廖化が、自らの半生を振り返る、という内容です。
過去にいくつかの三国志を読んで、実のところ私にとって一番謎だったのは、劉備がなぜあれほど人気があったのか、ということでした。
戦の戦績は芳しくなく、強固な地盤もない。豪傑という訳でもなさそう。なのに多くの有能な人たちが劉備の下に集まる不思議。本書は小説ではありますが、この疑問に初めて一つの答えを得た気がしました。
劉備が、隆中の草盧に諸葛亮を訪ねる有名な場面、昼寝をしているから起こして来るという童を劉備が「起こしてはならぬ」と止めます。何故?と問われた劉備は、
「おめえ、気持ち良く眠っているところを叩き起こされたら怒らねえか?」(本文より)
ここからも分かる通り、本書の描く劉備は“ざっくばらんで偉ぶらない”人物。武侠から成り上がったという設定でしたたかさもある一方、情誼に厚く親分肌の理想家です。私の勝手なイメージで言うと、赤髪のシャンクスや杉さまの次郎長親分というところでしょうか。
この劉備を「自らが根を張る大地」と見た廖化は、作中、劉備一派の薫陶を受けて成長。長坂の戦いで従ってきた大勢の民を死なせてしまい「心に蓋をしてしまった」劉備に対し、逆に自らがその支えにならんとします。
古典の軍記ものは事件中心に話が進む為、どうしても描写が淡白になりがちですが、本書は廖化という人物を設定することで、温かい血が通った物語に再構築されています。関羽と張飛の最期、白帝城で劉備が諸葛亮に後事を託すくだりなど、後半お馴染みのエピソードにも泣けました。
終章最後の数頁は、蜀漢滅亡して後、洛陽で静かな余生を送る劉禅の後日談。一陣の穏やかな風が通り抜けたようなラストに感動しました。
写真は「三国志トランプ」の、左から関羽、張飛、諸葛亮、趙雲、廖化のカード。(2012年-37冊目)☆☆☆